2015年10月25日日曜日

異次元遊園地

2012年10月14日に見た夢の話です。

他人の夢の話ほどつまらないものはないと思います。
人は他人の心のありように当の本人ほど興味は持てないものだし、その大抵が物語として破綻しているからです。
だけどこの日見た夢の内容は今でも驚くほどよく覚えています。
古今東西ありとあらゆるフィクションから影響を受けまくったラノベみたいに陳腐な話ですが、あまりにリアルで細部にわたって入り組んでいるうえに設定に一切の破綻がなく、夢の中では数か月程の体感がありました。
目が覚めた瞬間に微に入り細に入りメモとして書きとめてあったのを先ほど発見してこれは・・・と思い、興ざめ承知でまとめました。

メモ書きの内容が混沌としていたため、読みやすくするために順序を入れ替え加筆して一人称仕立てとしましたが、内容は九割見た夢そのままです。
胸糞わるい暴力描写あるので注意してください。



*****

私はこの春から全寮制の国立魔法学校に通っている。
クラスメイトは43人。美人で優しい担任のかおり先生と一緒に、一人前の魔法使いになるために毎日元気に頑張っている。
他の学校のことは知らないけど、私たちの学校には10歳から17歳までの女の子だけが集められている。
普通の子が勉強する科目は9歳か、遅くても15歳までには高校三年生までのぶんを全部終わらせて、それからは魔法の勉強だけに集中する。

10歳なのは私を含めて三人だけ。
同じクラスの美咲ちゃんは攻撃寄りのバランス型で、普通科目時代から今までずっと一番の成績だ。
隣のクラスの由美ちゃんは回復魔法が得意で優しい女の子。うさぎの飼育係をやってる。
私は特に得意な科目はないけど、結界を張るのが好き。
美咲ちゃんも私も気が強い方なのでしょっちゅうケンカになるけど、由美ちゃんに叱られてすぐに仲直りする。
大人になったらすごく強い国家魔法使いになって、三人一緒に天皇陛下から勲章をもらおうねって話してる。
でも本当は私、大人になったらかおり先生みたいな先生になりたいなって思う。二人には内緒だ。



三か月間の初級魔法課程が修了してすぐに、はじめての実習に参加することになった。魔法職で国家公務員を目指すなら必須の実習『異次元遊園地』実習だ。
『異次元遊園地』は国家魔法使いたちがその強力な魔力で錬成したいくつもの亜空間のうちのひとつだ。
亜空間は『こっち側』に数カ所開けられた特別な出入り口のほかには現実のどんな場所ともつながっていない。

校内にある実習準備室の奥にあるドアが亜空間同士をつなぐ『駅』への入り口だと説明を受け、私たちはクラスごとにドアをくぐった。
ドアの中に一歩足を踏み入れるとそこは列車の中だった。遊園地の列車みたいに座席が外からむき出しになっていて、手すりには転落防止の黄色いプラスチックの鎖が巻き付いていた。スピードはのろかったけど、車両の外の様子を見ようとするとまぶしくて何もわからなかった。
隣に座った美咲ちゃんに「すごいね」と話しかけたけど、美咲ちゃんは怒ったみたいな顔をして前を向いたまま黙っていた。列車が『異次元遊園地』駅のホームにすべり込むまで他の子もだれも一言も口を利かなかった。
『異次元遊園地』駅は田舎のおばあちゃんちの駅みたいに無人の木造の駅だった。

改札をくぐって外に出ると、見上げた空は一面赤か朱色みたいな毒々しい色に染まっていて私は不安で胸が締め付けられたけど、あんなきもちわるい列車を降りて広い空間に出られたことでみんなの表情はやわらかくなっていたので私もすこしだけホッとした。

改札を出てすぐ目の前の『異次元遊園地』とレリーフされた巨大な鉄の門の向こうには、巨大な観覧車やジェットコースターの骨組みの一部が見えて、生まれてから一回も遊園地に来たことのない私の胸は高鳴った。遊びに来たわけじゃないのに。

クラスごとに門をくぐって、園の中に入る。かばんからジュースを出して飲んだり、おしゃべりして笑ってる子もいて、遠足みたいだった。「さっさと終わらせたら遊ばせてくれないかな」「やだ早く帰りたい、あんた趣味悪い」みたいな軽口も聴こえた。

教務主任の先生が大きな音で笛を長く一度吹いて、訓練を受けている私たちはすぐにおしゃべりをやめて整列した。
そこでそれまで伏せられていた実習内容が私たちに告げられた。
”遊園地敷地内で四時間の間生き抜くこと。そのためなら何をしてもかまわない。三十秒後に開始する”
「生き抜く」?
その語感の強さに戸惑っている私たちの耳に聴こえてきたのは、背後の駅舎から流れ出す山手線の発車メロディが半音狂ったような奇妙な音声だった。

気が付くと、遊具の影やお土産物売り場の中から髪と髭がぼうぼうに伸びた男たちがわらわらと現れて呆然としている私たちの方に近づいてきていた。強烈なにおいが鼻をつく。
教務主任の先生がスッと手を挙げるのが見えた。列の一番前、おびえて先生のそばに固まっていた子たちに向って汚いおじさんのひとりが走り寄り、背中から取り出した大きい鉈のようなものを思いっきり振り下ろした。
その悲鳴を合図に大虐殺が始まった。

素手で引きずり倒しておなかを踏みつけるやつもいれば鎌を振り回すやつもいる。魔法を使うやつまでいた。
一瞬はパニックになりかけたものの、初級とはいえ魔法使いである私たちは数カ所に固まって結界を張ったり、防御魔法や攻撃魔法で応戦するけどほとんど歯が立たない。

何が起こっているのかまったく理解できない。
でも抵抗しないと確実にやられる。
こんな怖い人たちに捕まるのは絶対にいやだ。

私は結界と時限式の罠を組みあわせて遊具と遊具の隙間を縫うようにして逃げた。由美ちゃんと美咲ちゃんのことが心配でたまらなかったけど二人を探してる余裕なんてなかった。
冷や汗でびしょびしょになりながらそうやって2時間ほど逃げ回ったころ、集中が切れて結界が掻き消えてしまった。その瞬間後ろからなにかの刃物で斬り付けられ、私は広場の芝生の上に倒れた。
倒れこんだところを上から何度も何度も刃物で突き刺された。すさまじい恐怖と呼吸の苦しさと痛みで私は気を失った。



遠くから聴こえる狂った発車メロディの音で目を覚ますと、私は広場の芝生の上で横になっていた。
体中にあるはずの刺し傷や転んだ膝の傷は全部消えていて、かおり先生が「よく頑張りました。でももうちょっと周りに注意しようね」と頭を撫でてくれた。
やっぱり「ふり」だったんだ、先生たちの魔法で幻覚か何か見せられてただけなんだ・・・と思うとホッとして体中の力が抜けていくのがわかった。
同じように近くに倒れていたクラスメイト何人かと、保険室の先生の運転するバギーに乗って駅まで戻った。
あの汚いおじさんたちの姿はもうどこにも見えなかった。

駅舎の中にあるレストランには宴会の準備ができていて、先生たちは乾杯をしてお酒を飲みはじめた。
私たちにはジュースとドーナツが配られたけど皆ぼーっとしてしまっていて誰も手をつけなかった。
そこで初めて私は由美ちゃんがいないことに気付いた。
私はかおり先生の席まで行って「先生、由美ちゃんがまだ集合してません」と言った。先生は手に持った黒い名簿と私の顔を交互に眺めながら頷くだけだった。
自分の席に戻って由美ちゃんがいないんだけどと言うと、膝を抱えていた美咲ちゃんは大声で泣き出した。みんながびっくりして私たちのほうを見た。美咲ちゃんはしゃくりあげながら、この実習のルールについて私たちにとぎれとぎれに説明してくれた。



★「異次元遊園地」実習について★

【前提】
刑法改正に伴い、並外れて凶悪な犯罪を犯し懲役100年~10000年の超長期刑に処せられた受刑者への対応策として「異次元流し」制度が考案された。国家魔法使いによって錬成された亜空間内で受刑者は自身の死期をはるかに越えた刑期を全うすることとなる。
刑期を短縮する方法として社会貢献活動があるが、国立教育機関である魔法学校の実習用モンスター役として自身を提供することもその選択肢の一つである。

【実習クリア要件】
①実習では生徒の実力を
 1.魔法の精度・威力
 2.状況判断能力
 3. 殺害されるまでの時間
 の三観点からポイント付けし、上位10%の成績をおさめた者を「適」とし、他を「不適」とする。
②「適」者については本課程を修了とし次過程に進む。「不適」者については再試とする。
③全九回実施される再試の結果「不適」評価だった者を落第とする。
④死亡もしくは負傷した場合も①の基準に照らし合わせ「適」者となった場合は特例とし、養護教諭によってすみやかに蘇生処置もしくは回復魔法による治癒を行うこととする。ただし死亡していた場合は「適」者であっても再試とする。
⑤死亡した「不適」者については、遺体を回収し修復(蘇生は行わない)のち保護者に郵送、在学生名簿から抹消することとする。

以上

★★★★


信じられないような話だった。
美咲ちゃんは泣きじゃくりながら何度もごめんねごめんねと謝った。
私お父さんから聞いて知ってたの本当は言わなきゃいけなかったんだけど言えなかったの絶対に言っちゃいけないことになってるのでも言えなくてごめん、由美もごめん
「あ、由美ちゃん死んじゃったんだ」
口に出したら私の目からも涙がぶわっとあふれた。

私は先生たちの座ってるテーブルを見た。教え子が死んだ直後にあんなに楽しそうにお酒が飲めるなんて先生たちは狂ってる、と思った。
かおり先生も笑ってた。優しく見えるけどやっぱり魔女なんだと思った。

それからまたあの列車で『こっち側』に戻って、その夜の寮のごはんはごちそうだった。ほとんどの生徒がそれを残した。
43人だったクラスメイトは37人に減っていた。誰が合格して誰が死んだのかは教えてもらえなかったけどなんとなくわかった。



それから一週間おきに『異次元遊園地』の再試が行われて、クラスメイトは毎週減っていった。

クラスで一番かわいい13歳の美貴ちゃんは毎回、開始直後に手足をつぶされて四時間のあいだずっと囚人たちに輪姦されていた。
彼らのお気に入りだから最後まで殺されずに生かされて、何回も再試やってるうちにもう完全に頭がおかしくなっちゃって、毎週実習の前の日に手首を切るんだけど、毎回毎回先生に蘇生させられてる。

魔法学校を自主的に退学することはできない。
美咲ちゃんに話を聞いて、一旦魔法学校に入ったら出る方法は三通りしかないことがわかった。課程を修めて卒業するか、死体になって総務課の郵送窓口から出るか、規定回数以上落第するか。

押さえつけられて獣みたいな声で叫ぶ美貴ちゃんを2mくらい離れた距離から眺めながら、隣のクラスの担任の男の先生はいつも首をひねりながら例の黒い帳面になにか書きつけていた。
その口元がうっすら笑っているのを見てしまって私はもう本当にだめだと思った。

・・・そう、開始直後に隠れて最後まで逃げ切れば、再試クリアのためのポイントは付かないけど殺されることもない。
私はまだ自分一人が入れるサイズの結界しか張ることができないしそれも一回数分間しかもたないから、開始の合図のメロディが鳴りはじめる瞬間に目隠しの結界を張って、何度も物陰に隠れながら逃げなきゃいけなかった。
声を出したら居場所がばれてしまうから声を出さずに泣きながら必死で逃げた。

クラスで三番目だった私の成績は最下位まで落ちて、毎日放課後夜遅くまで補習を受けなきゃいけなかった。
ここまで内申が下がってしまったらもうまとも仕事にはつけない、先生にだってなれない。
そんな私に対してかおり先生はどんどん冷たくなっていった。
かおり先生も私と同じで一般家庭から苦労して魔法使いになった人だから、私のことを歳の離れた妹みたいにかわいがってくれていた。だからすごく寂しかったけどあんなふうにめちゃくちゃにされたり殺されるよりかはマシだ。



三回目の再試のとき、遊園地の片隅にある古い喫茶店を見つけた。
おそるおそる店内に入ると、ほこりまみれの机の前に白髪で白ひげのおじいさんが一人で座っていて、私に向かって低い声で「よくここがわかったね」と言った。私が体をばっと引くとおじいさんは「何もしないから大丈夫」と言って笑った。

「なんでですか?」
「子供が好きだから」
どんな悪いことしたの?と聞きたかったけど怖くて聞けなかった。だけど悪い人じゃないことはなんとなくわかった。
それから再試の時は毎回、その喫茶店にかくまってもらうようになった。おじいさんの体からもものすごいにおいがしたけどすぐに慣れた。
おじいさんが張ってくれた強力な結界のおかげで、喫茶店が囚人に襲われることはなかった。
美咲ちゃんも一緒に隠れようよと何度も誘ったけど、美咲ちゃんの家はうちと違ってお父さんもお母さんも上級魔法使いだからそんなことは絶対にできないと言っていつもすごく怒った。
美咲ちゃんの実力なら、本当だったらとっくにクリアしてるはずなんだけど、もう何度も再試を受けていて、私は心配だった。私たち三人の中で美咲ちゃんが一番こわがりだから。

八回目の再試の時、開始直後に美咲ちゃんは囚人に捕まって地面に押さえつけられて火炎放射器で頭を黒焦げにされた。姿を消していた私は思わず声が出そうになったけどくるっと振り返って走って逃げた。

もうとっくに泣く気力もなくなっていたけど、喫茶店の玄関のドアをくぐるとそれでも涙がぽろぽろこぼれた。
おじいさんは私を抱きしめて頭を撫でてくれた。おじいさんはすごくくさかったけど私はおじいさんにつかまってわんわん泣いた。

「学校やめたい・・・でも卒業までは家と連絡取れない決まりなんです」
「いつもここに来るといいよ、落第してもあんなひどい試験参加しなくていい、じいちゃんあんたの味方だよ」
「先生たち私たちが殺されても何も思わないのかな」
「魔法使いというのはそういうもんだよ、あんたふつうの家に育ったから知らんかったでしょう」
「かおり先生、優しかったのにもう別の人みたい」

おじいさんがええっと言う声を出した。

「その先生もしかして、専門は結界じゃないか」
「そうだけど、なんで」
「・・・じいちゃんも昔先生だったんだよ」
「ええっ」
「それでそのかおり先生というのはたぶん俺の生徒だった」

*****



ここで目が覚めた!!!!!!!!

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